枚方法律事務所

倒産と労働債権について


(’02年8月の地方自治体の労働相談担当者の研修会における弁護士永嶋靖久の講演。日本労働弁護団「働く人のための倒産対策実践マニュアル」を参考にしました。その後の破産法改正などにより,労働債権の取扱などが一部変わっています。)

1 企業の破産・倒産をめぐる制度はどうなっているか

1) 破産・倒産とは何か

@ 破産;

債務を弁済できなくなった債務者の総財産の強制的換価と総債権者への公平な配当を目的として,個人や企業が,裁判所に,破産法に基づく破産の申立てをして裁判所が破産の宣告をするという手続

A 倒産;

企業が経営に行き詰まり,正常な営業活動の継続ができなくなった状態。破産や民事再生を裁判所に申し立てたり,不渡手形が6ヶ月以内に2回出て銀行取引停止処分によって顕在化することが多い。中小企業倒産防止共済法では,「@破産,再生手続開始,更生手続開始,整理開始又は特別清算開始の申立てがされること。A手形交換所において,その手形交換所で手形交換を行つている金融機関が金融取引を停止する原因となる事実についての公表がこれらの金融機関に対してされること。」と定義。 →企業が倒産するときには,破産という法的手続をとるときもあるし,それ以外の方法をとるときもある。

2) 破産・倒産に関する制度はどうなっているか

・倒産に直面したときの企業の対応は,大きく分けて,法的手続をとるかどうか(裁判所を通すかどうか)に分かれる。それから,それぞれの場合に,企業の再建を目指すか・清算してしまうのかによって,分かれる。



















 
    種 類 法 律 概  要













 


破 産

 
破 産 法

 
○ 対象は自然人と法人
○ 裁判所が選任する管財人が破産者の総財産を現金化し,債権者に配当する。










 
会社更生




 
会社更生法




 
○ 対象は株式会社
○ 裁判所が選任する管財人が事業を経営し,旧経営者は退陣
○ 更生計画が多数の債権者の同意と裁判所の認可を得られれば,更生計画によって会社を再建し債権者に返済する。
民事再生



 
民事再生法



 
○ 対象は自然人・法人
○ 債務者が再生計画を立案し,債権者の過半数の同意と裁判所の認可を得られれば,再生計画によって債務を返済する。
○ 従前の経営者は交代しない。



再建型
 



 
○ 定められた手続はない。
○ 会社が依頼した弁護士や債権者委員会が手続を進めることもある。
○ 裁判所は関与しない。
清算型
 

・破産手続・民事再生手続の概要  (最高裁が提供

 

1 破産・倒産に備えて何をなすべきか

1) 平常時にすべきことは何か

@ 情報収集と経営分析;倒産の兆候がないか,気を配っておかなければならない。

・日常的な情報収集:経営状況(経理内容)

・会社の資産内容(動産,不動産,社長等の個人資産,売掛金)の把握

・社会保険料等の納付や退職金積立の状況把握,関係登記簿や従業員名簿の整理

・倒産の兆候の把握

ex賃金・賞与の遅配,欠配,商品のダンピングやクレーム・在庫の山,主力銀行が変わる,株価の低落,手形のジャンプや融通手形の噂,経営者のサイドビジネスや投機,所用役員の退職や変な人事異動,最近は銀行からの出向役員が突然きたら要注意,見慣れない人物が会社に出入りする,社長や経理担当の役員の行方がつかめない

A 解雇・事業所閉鎖・M&A・会社解散などについての労働協約の締結

・平常時から,あらかじめ倒産に備えて,労働組合と企業の間で,いろいろな約束を,書面で,取り交わしておく必要がある。一人一人の労働者が個別に,使用者企業に対して解雇や閉鎖倒産に立ち向かうことは非常に困難。労働組合を通して,予め非常時に備えて企業と労働協約を結んでおかなければならない。

・労働組合;労働者は,労働組合を結成し,労働組合を通じて使用者と交渉することによって,初めて使用者と対等な地位に立ち,労働条件を決定することができる。憲法第28条「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する。」

・労働協約;労働組合と使用者または使用者団体との間で労働条件その他の労働関係に関して締結される協定(契約)。労働組合法14条(労働協約の効力の発生)「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによつてその効力を生ずる。」 ex 労働協約の実例  事前協議約款,同意約款等  日常的に発生する個別的な解雇問題等に対して組合との事前協議を義務づける,組合の事前同意を義務づける。個別的解雇問題の枠を超えた,整理解雇や事業所閉鎖等の経営全体に関わる事項に関して事前協議,事前同意約款

B 破産・倒産以前の賃金未払

・会社はつぶれない。しかし,遅配・欠配が生じている,あるいは,割増賃金をきちんと支払わないときにどうするか。

支払督促少額訴訟;未払がはっきりしているなら裁判手続(支払督促・少額訴訟)をとって,それでも企業が支払わなければ執行(売掛金に対する債権執行等)する。支払督促や少額訴訟というのは,弁護士をつけないで自分でできる手続。具体的に手続をとるときに,裁判所の窓口に行けば詳しいやり方を教えてくれる。支払督促には金額の上限なし。少額訴訟は60万円まで。

・法的手段をとったら会社がつぶれるかも知れないとき;  会社をつぶしてでもいいから賃金を取るか,それとも賃金は辛抱しても会社を残すか。

2) 倒産に直面したときにすべきことは何か

@ 職場確保と資産の保全

・労働組合の役割;倒産時の労働組合の役割は非常に大きい。個人でできることは,労働組合と比べると限られている。労働組合に加入する・結成するなど複数で(できれば全員),交渉・行動する

・職場確保(自主生産)の協定など;倒産時に労働者としては,雇用と労働債権の確保を目指す。そのためには,職場を守って営業継続を目指す必要がある。こういうことは一人ではできない。これが労働組合による職場の確保の意味だが,労働組合による職場確保には債権者がどさくさ紛れに勝手に会社の資産を持ち出したりするのを防ぐとか,結局破産することになったとしても,仕掛品を製品に完成させておけば,会社の資産を増やせるという意味もある。これを問題なく行うために,組合としては,事業所使用協定を使用者との間で結んでおく必要がある。

・資産の管理;労働債権の支払い原資となり得る財産が散逸しないよう管理する。

B 労働債権確認・雇用確保のための労働協約等

・労働債権確認書の作成・資料保管;倒産時の混乱のなかでいろんな帳簿類が消失したり,経理責任者が行方不明になったりすることもある。そうなると後々法的手続をとろうにも,労働債権の額がいくらだったかはっきりしないことになる。そうなるまえに,できるだけ早急に,一人一人の労働者について遅配・欠配の額,退職金の額を確認して会社の代表者の署名押印した書類をとっておく(代表者印押印,印鑑証明書添付)。賃金等労働債権の金額の裏付けとなる資料の保管。

・退職金協定(退職金上積み協定);退職金というのは具体的な金額とか計算式を定めておいて,誰々についていくら発生していると言うことがはっきりしていないと労働者の側は退職金を請求できない。だから,平常時から退職金協定というのは結ぶようにしておかなければならないし,もし倒産やという時点で退職金の決まりがなければ,できるだけ早く会社との間で退職金協定を結ばなければならない。元々退職金協定がある場合には,退職金を上積みする協定を結んでおけば後々有利になる。

・労働債権確保の協定;一番簡単な方法は,会社の財産を会社からもらうこと。会社の財産を会社確保するのに一番簡単なのは,組合として,組合が会社から会社の資産を譲り受けますという労働協約を締結すること。だから,倒産に直面したときには,会社資産譲渡協定・債権(売掛金)譲渡協定などを結んでおくことも有効。

 破産・倒産したら労働債権をどう確保するか

1) 労働債権とはどのようなものか

@ 労働債権;  月々の給料(賃金)・残業や休日出勤の割増賃金,退職金,解雇予告手当など  就業規則通り・法律通りに払われていなければ,過去2年間分は労働債権として請求できる。社内預金は,労働債権として扱われない場合があるから注意がいる。  労働基準法 第115条(時効) 「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。),災害補償その他の請求権は二年間,この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては,時効によつて消滅する。」

A 労働債権の優先性

・労働者は賃金が払われないとたちどころに生活できなくなってしまう。売掛金や貸付金もそれに一家の生活がかかっているという人もないとはいえないかもしれないけれど,普通は,商売をしていてその一部が焦げ付きになったり貸し倒れになったりということで,労働者の賃金の不払いの深刻さはその比較にならない。だから,法律はいろいろと労働債権を保護する決まりを設けている。

・一般の買掛金債務や借入金債務を支払わなくてもそれだけで罰金を科されるということはない。はじめから返すつもりもないのに借金をしたり,代金を支払うつもりがないのに商品を買い入れたらそれは詐欺という犯罪になるが,そうでない限り,払えるのに借金を返さない,払えるのに代金を支払わないというだけでは犯罪にはならない。しかし,労働者が同意したのでない限り,賃金の遅配・欠配は,犯罪となる。

労働基準法24条「賃金は通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない」,労働基準法120条1項「労働基準法24条違反は30万円以下の罰金」。つまり,賃金不払は犯罪。

・民法・商法等で労働債権は,他の売掛金や貸付金よりも優先的に弁済されるという労働債権の優先性を保障=先取特権。先取特権のある労働債権を証明すれば,正式の裁判手続きを経ることなく,いきなり,裁判所に使用者の財産に対する差押や競売等の申立を行って,債権回収できる。(いわば,抵当権を付けた住宅ローンのようなもの)。

民法308条〔雇人給料の先取特権〕「雇人給料ノ先取特権ハ債務者ノ雇人カ受クヘキ最後ノ六个月間ノ給料ニ付キ存在ス」

商法295条〔会社使用人の先取特権〕「身元保証金ノ返還ヲ目的トスル債権其ノ他会 社ト使用人トノ間ノ雇傭関係ニ基キ生ジタル債権ヲ有スル者ハ会社ノ総財産ノ上ニ先取 特権ヲ有ス」(有限会社にも準用)

B 破産・倒産=解雇ではない ・会社が破産申立をしただけでは自動的に社員の身分はなくならない。会社が裁判所に破産を申立てても,一人一人にきちんと解雇が通告されるまでは社員の身分はある。解雇の通告があるまでは,ずっと賃金は発生している。ばたばたしていて,解雇通告を忘れる使用者とか弁護士がいる。

2) 労働債権をどうやって確保するか

@ 労働債権を確保するために何が必要か

・労働債権の裏付け資料の収集・整理;どんな方法によって労働債権を確保回収するにしても,自分がいくら労働債権を持っているのかと言うことがはっきりしなければ話にならない。裁判もできない。先に述べた労働債権確認書があれば,裏付け資料としては非常に簡単だろうが,それがとれなければ,会社の就業規則とか,労働協約,過去の給料明細・振り込みなら預金通帳などいろいろな資料が必要になる。これだけあればいいとか,絶対これがいるとか一概にはいえないが,要するに請求する金額の根拠を第三者に納得させられるだけの資料がそろえる必要はある。時間がたてばたつほど資料の収集は難しいからできるだけ早急にそろえる必要がある。

・支払原資となる会社資産の確保;倒産時の労働債権確保だけの話ではなく,離婚のときの慰謝料でも,借金の取り立てでも同じだが,債権があるということと現実に相手から回収できるということは全く別。負債が資産を超過して倒産するのだから,手をこまねいていたら,どれだけ多額の労働債権があって,どれだけ労働債権の裏付け資料があったとしても一円も回収できないと言うことになってしまう。会社のどこにどんな資産がどの程度あるのか,それを発見して,さらにそれが勝手に処分されたりすることのないよう注意しないといけない。さらに,会社経営者が財産隠しをするような場合もある。会社資産の発見・確保は,一人ではなかなか難しいが,非常に大切。

A 労基法104条1項による労基署への申告・告発

・賃金の不払いは犯罪。労基署に企業で賃金不払いがあると申告したり,不払いがあるから処罰してほしいと告発することは,弁護士を依頼したり,組合を通してでなくても,誰でも一人でも,特に費用もかけずにできる。場合によっては,使用者が賃金を払うから告訴を取り下げてくれと示談を提案してくる可能性もある。ただ,実際問題として,これだけ,倒産があって,賃金の不払いが横行している中で,なかなか,処罰にまで行くことはない。そのことを使用者も知っているか,また示談で支払う金もなければ示談も難しい。


B 裁判手続の活用

・一般先取特権に基づく差押

・仮差押・賃金仮払仮処分

・仮執行宣言付き支払督促に基づく会社財産への強制執行

 差押・強制執行というのは,実際に会社の財産を自分のものにして労働債権を回収する方法。一般先取特権に基づく差押は,労働債権を根拠としてすぐ差押手続をとる方法,仮執行宣言付き支払督促に基づく強制執行は,まず労働債権を理由に支払督促という手続をとり,それにもとづいて強制執行する方法。一般先取特権に基づく差押の方が迅速。ただし,いきなり差押してしまう手続だから,裁判所への提出資料は十分なものが必要ex賃金退職金規程・離職票・健康保険証写し・賃金明細書・内容証明郵便(請求書)・預金通帳写・陳述書(本人による経過説明)。
 仮差押・賃金仮払仮処分は字のとおりあくまで仮のもの。ただ,賃金仮払仮処分というのは,裁判所が労働者に現金を支払えと命じる決定なので,実際にこの決定がでれば非常に強力。ただ,なかなか難しい。仮差押は,会社の財産隠しや会社が財産を処分するのを防ぐという点では意味があるが,積極的に,労働債権を満足するというものではない。  いずれにしても,こういう裁判手続の活用は,いざというときに自分一人するのはなかなか困難,自分でするにしても,弁護士や司法書士に相談して,あるいは自分では難しいから弁護士に依頼してすると言うことになる。また,破産等の法的手続に入ってしまえば,労働債権の支払はその手続の中でされるから,これらの手続は意味がない。しかし,破産宣告がでるまでの時期には,現実に回収できる可能性がある限り,やることに意味がある。ただ,いずれにしても多数の債権者がいるときには先手必勝。思いついたらすぐに行動に移す。

C 取締役個人や親会社などから回収できないか
 事情と条件によっては,会社以外の第三者(取締役個人・親会社等)からの回収を検討すべき ・取締役は,経営の失敗に関して,個人としての損害賠償責任を負う場合がある。
 商法266条ノ3〔取締役の第三者に対する責任〕「取締役ガ其ノ職務ヲ行フニ付悪意又ハ重大ナル過失アリタルトキハ其ノ取締役ハ第三者ニ対シテモ亦連帯シテ損害賠償ノ責ニ任ズ」 ・法人格否認の法理を利用して,親会社や新会社・背景資本の責任を追及する方法もある

C 賃金支払確保法による立替制度の利用
 企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して,未払賃金の一部を立替払する制度。年齢・未払い額に応じて立替払には上限がある。全国の労働基準監督署及び労働福祉事業団で制度を実施。

・立替払の要件
(1) 使用者が, @ 1年以上事業活動を行っていたこと A 倒産したこと イ 法律上の倒産(破産・特別清算・会社整理・民事再生・会社更生) ロ 事実上の倒産(中小企業で,事業活動停止・再開見込も賃金支払能力もない)  
(2) 労働者が,倒産について裁判所への申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること

・賃金支払確保法改正 倒産等により未払賃金が発生した場合,退職日前半年間の給与等について,立替払の上限額が次のように引上げられた。(平成14年1月の退職者から) 30歳未満 88万円(未払賃金の上限額110万円の8割) 30歳以上45歳未満 176万円(未払賃金の上限額220万円の8割) 45歳以上 296万円(未払賃金の上限額370万円の8割)
・手続は倒産企業の事業地の労働基準監督署へ
・制度の概要 (厚生労働省が提供

D 中退金や特退金に加入していないか

・中退金;中小企業退職金共済法に基づく中小企業のための国の退職金制度。勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が運営。事業主が機構・中退共本部と退職金共済契約を結び,毎月の掛金を金融機関に納付。従業員が退職したときは,その従業員に機構・中退共本部から退職金が直接支払われる。  

・特退金(特別退職金共済制度);商工会議所が地区内事業所と退職金共済契約を締結し,商工会議所はその掛け金を日本団体生命保険鰍ノ運用させ,従業員が退職した場合に,商工会議所が従業員に退職一時金等を支払う制度。

E 社内融資は労働債権と相殺できるか ・労働債権と社内融資との相殺は原則として認められない。労基法24条「賃金全額支払いの原則」により,会社は,社内融資を受けていたとしても,いったんは賃金を全額支払う義務がある。ただ,山一証券で,社内融資と退職金の相殺が裁判で争われて,労働者側が負けた。退職するときに,「社内融資と退職金を相殺してもらっても結構です」という内容の一筆が会社に差し入れられていた。一方的に相殺されることはないが,労働者の方で,相殺されてもかまいませんと言うことを言っていれば,相殺も許される。

 倒産処理の中で労働債権はどう扱われるか

・上の説明は,企業が倒産したときに,労働者個人や労働組合が何かをするとしたら,どんなことがあるか,何をなすべきかということ。実際に倒産してしまえば,個人的に何かをしてもしなくても,手続は進んでいく。









 
順位 任意整理 破  産 会社更生 民事再生


 
法定納期以前に設定
した抵当権付債権
 
抵当権付債権

 
手続開始6ヶ月前の賃
金・納期の来ていない
税金・管財人の報酬等
抵当権付債権

 
税金 管財人報酬・税金等 抵当権付債権 賃金・税金

 
法定納期後に設定し
た抵当権付債権
賃金
 
上記以外の賃金・税金
 
管財人報酬等
 
賃金 一般債権 一般債権 一般債権
一般債権      

・抵当権付債権とは,金融機関が住宅ローンの担保に当該不動産に抵当をつけるのと同様,会社の不動産に抵当をつけ企業が金融機関から借り入れを起こしたもの。この抵当権付債権者は,会社が倒産してしまえば,いつでもその不動産を競売にかけて債権を回収できる。その意味では一番強い債権者。まずこの債権者が,その抵当権の範囲で保護されている。

・つぎに,税金・管財人に報酬が払われる。その後に,まだ会社に資産があれば,労働債権を支払う,というようになっている。確かに,労働債権は一般債権よりは優先しているのだけれど,どうしようもなくなって倒産するという会社が破産手続をとるような場合は,どれだけ労働債権が配当されるかというとなかなか厳しい。

・ただ,手続の中で労働債権が支払われるといっても,何もしないで放っておくのと,積極的に労働債権を持っている債権者として行動するのとでは,やはり保護される程度・内容が違ってくる可能性は十分にある。たとえば,管財人や裁判所の認める労働債権の額に間違いはないかどうか,また会社の財産隠しなどの場合,そこで働いていた労働者が一番発見できる可能性がある。漫然と,管財人や裁判所に任せておくと回収できる債権も回収できないということは十分にあり得る。できそうなことはなんでもしないといけない。  

4 破産・倒産の場合に雇用の確保は不可能か

・倒産・解散によっても,自動的に解雇とはならない。また,解雇通告があったとしても,解雇が無効とされる場合もある。裁判所は解雇が無効の場合は,解散企業に賃金支払を命じることもある。

・直接の雇用主でなくとも,親会社などの第三者に雇用問題について団体交渉に応じる義務が認められている場合がある。親会社は,団交応諾だけでなく直接の雇用責任を負う場合もある。

・事業を承継した企業に雇用責任を追及できる場合もある。

  5 倒産と雇用保険・社会保険

1) 雇用保険(失業等給付) 

・使用者の届出,保険料納付の有無とは無関係に,適用対象事業の労働者は雇用保険の被保険者資格を取得する。

・役員(取締役)の場合にも被保険者資格を取得できる場合がある。

・離職理由により,基本手当の給付日数が減少し,または,3ヶ月間の給付制限がされる場合がある。・離職表が発行されない場合には,公共職業安定所に確認請求をする。

・解雇無効を争う場合には,仮給付の手続をとる。

2) 社会保険

・資格喪失後にも健康保険を使う方法には,任意継続と継続療養がある。

・解雇の効力を争う場合にも,事業種が資格喪失手続をとると資格が喪失されたものとして扱われる。資格喪失処理に対しては,保険者に意義を述べて資格喪失処理の取消を請求しておくことが望ましい。

ご注意下さい。このホームページで紹介している情報は,あなたへの法的なアドバイスではありません。個別の状況に応じた,法的アドバイスを希望される方は,弁護士による法律相談をお受けになることをお勧めします。
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